事例紹介 / 新築 ビル
心地よい非日常空間で
デザインエコガラスの窓が活躍
千葉県 moonbow cafe&kitchen
- 立地
- 千葉県御宿町
- 構造種別
- 木造平屋建(2×4)
- 延床面積
- 47.20㎡
- 用途
- 飲食店
- 竣工
- 2021年
定年後の移住先でお店を開業
ゆるやかなアプローチを抜けると明るい空色の壁と三角屋根が見えてきました。moonbow cafe&kitchenは2021年秋、御宿町の高台に広がるリゾートタウンにオープンしたカフェです。
オーナーの千村さんご夫妻は横浜在住だった5年前、別荘として中古の戸建住宅を購入。趣味のゴルフを楽しむ拠点として頻繁に利用し、ご主人の定年退職を機に定住しました。
カフェが建っているのは、以前庭だったところです。移住後約半年でこの新築を建設しカフェオープンまでこぎつけたとのお話に、長く緻密な計画を立てて取り組んだおふたりの姿が目に浮かびます。
地域の協定に従い建築面積を50㎡以下に抑えたお店は、これも協定通りに一部を住宅に連結しました。訪れる人は母屋の脇を通り、少し奥まったエントランスにたどり着きます。
前面道路より10mほど引っ込み、さらに一段高いデッキテラスになっていて、開放的なのにくつろげる屋外空間にしつらえられていました。
意匠性を高めた“ハワイ風カフェ空間”
外房の代表的なリゾートエリアのひとつであるこの地の気候を「冬は暖かいし、夏も都市のコンクリート的な暑さがなくて涼しいです」と千村さん。
「ただ、築20年で吹き抜けのある母屋は寒いですね。大きな家はやはり寒さを感じます」
その一方で、当初からイメージしていたカフェは“吹抜のように天井が高いハワイ風の一室空間”でした。
建設を依頼したのは、地元御宿町の(有)つるおか工務店です。
アーリーアメリカン調や南欧風の輸入デザイン住宅を得意として数多く手がけるほか、千村夫妻が描くイメージに近いカフェの設計施工も行っていたことが決定打になりました。
ステップを上ると、明るいレンガ色のタイルが張られています。奥行き3m近くあるデッキスペースは「先に買っておいた家具に合わせて鶴岡さんに広くしてもらいました」と千村さん。なるほど、全体のおさまりもいいわけです。
青い扉を開けて店内に入ると空気が変わりました。たくさんの窓から入る自然光が白色の壁や小屋裏に柔らかく拡散し、ダークブラウンのフローリングや家具類が落ち着きを与えています。
天井を張らずに棟木をあらわしにした頂部の高さは約5m。外から見るよりずっと高く思えるのは、ふたつの大きな天窓と中央で回るシーリングファンの存在も寄与しているかもしれません。
奥の厨房がオープンキッチン仕様になっていることも手伝い、全体に床面積以上の広さを感じます。
快適さとデザインを担う20のエコガラス窓
気積が大きい一室空間の寒さを自邸で体験済みのご夫妻に、ここはどうですか? とうかがうと「お店は暖かいんですよ。エアコン1台で十分、それも3月半ばにはもう使わなくなりました」とにっこり。
昨年10月のオープン後、この1台のエアコンとシーリングファンだけで空調してきました。温度ムラもないといいます。
取材に訪れたのは3月半ばでしたが「冬は起床と同時にエアコンスイッチを入れていましたが、今はオープンまでつけません。前夜の暖かさが残っているので」
室内空気が外に流れ出さず長く保持される。エコガラスによる開口部断熱の典型的な性能が現れています。
「窓が多くて最初は心配でしたが、大丈夫でした」
つるおか工務店の基本は“冬暖かく夏涼しい建物”です。
壁内には厚い断熱材を入れ、窓枠はすべて樹脂サッシ。そしてガラスはすべてエコガラスが標準仕様。外から室内に入り込もうとする熱気や冷気を建物外皮全体で遮断し、快適な室内空気は外に逃さず保っています。
「自分が暑がりで寒がりだからね」と、取材に同席いただいた鶴岡さんが笑顔を見せました。
moonbow cafe&kitchenには20の窓があり、とくにふたつの天窓と南向きの妻壁に切られた4つの高窓は、店内の奥まで豊かな光を届けています。
その明るさは「日中は照明がいりません。お店として一応つけていますが…」と、洒落たデザインのシャンデリアやベネチアンガラスのペンダントライトを見上げながら笑って話す千村さんの言葉からも、十分想像できるでしょう。
日常を忘れる異空間は「心地よく素敵でなければ」
たくさんの窓に共通する特徴はガラス内部に仕込まれた樹脂の格子です。アメリカンデザインにフィットし、アンティークな雰囲気もあります。
なにより目を引くのは、ファサードの高窓と東西6箇所の上げ下げ窓上部、さらにエントランス扉につけられた半月型の窓。
棟梁自ら「つるおか工務店の標準仕様みたいなもの」というこの嵌め殺し異型窓は、アクセント以上の存在感を持って建物全体の意匠を決定づける要素になっています。
別荘やカフェなど“非日常空間”を演出する際、窓が発揮する力が見えるようです。お気に入りの窓は? の問いに奥様からは「窓は全部大好きです」と打てば響くように言葉が返りました。
その一方で悩みもあります。
周囲がひらけ、日当たり抜群の敷地ゆえに晴天時の日差しが強く、断熱窓でも防ぎきれない熱が入る場面があるというのです。
その典型が天窓で「南側は通常ブラインドを閉じ、開けるのは曇りの日です」。圧倒的な採光力ゆえに晴天時の日差しは強すぎるといいます。
悩みは3つ並んで切られた南側の窓にも。ロールスクリーンがついていない半月窓からは午後の日差しが夕方まで「動きながら射し込み続けます」
特徴あるフォルムに合ったスクリーンが見つからず、相談された鶴岡さんも「外側に何か張るしかないかな…」と思案顔。異型窓の魅力を失わずに問題を解決するためには、もうしばらく検討が必要なようです。
なんといってもmoonbowの身上は“気持ちのいい異空間”。「お店に入ってきた瞬間のお客様の第一声はいつも『うわー』です」とご夫妻。「近くにある高級老人ホームに入居されている方々からも『ここは素敵ね』とご好評いただいています」。
その後続いた「もともと素敵な家に住んでいる方は、それ以上に素敵な空間でないと来てくれませんよね」との言葉は、オーナーとしての実感がこもるとともに、ひとつの示唆をも感じさせました。
東京にも近い著名なリゾートエリアに建つカフェとして、moonbowにとって地域住民のみならず観光で訪れる人々も大切なお客様。そしてこのご時世、その多くはSNSでカフェを探してやってくるのです。
「だから、いい空間でないと来てくれません」と鶴岡さん。半月窓からの日射も「考えて、直していきます」と頼もしい一言がありました。
非日常の世界にしばし身を置き、心地よく過ごしてもらう。飲食施設とりわけカフェレストランにとって、魅力的なメニューとともに不可欠かつ存在意義にもかかわってくるサービスといえるでしょう。
そういった店舗空間の創出にあって、夏涼しく冬暖かな快適さはもちろん、高い性能と高度な意匠性の両立もまたエコガラス窓が担う使命なのだ…つい長居したくなるようなお店の秘密を少し、見つけた気がしました。
- 取材協力
- (有)つるおか工務店
https://daiku.co.jp/
tel:0470-68-4848
- 取材日
- 2022年3月16日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 渡辺洋司(わたなべスタジオ)