開口部にこだわった新築レポート -神奈川県 N邸-
住宅形態 | 壁式RC地上2階地下1階 |
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住まい手 | 夫婦+子ども2人+ミニチュアダックス |
敷地面積 | 250.34m2 |
延床面積 | 227.05m2 |
緑豊かな閑静な高台にたたずむN邸。外装はコンクリート打ちっ放しですが、壁面の一部に白タイルをバランス良くほどこしているため、温かみのある雰囲気が漂います。住まい手であるNさんは、建築家の前砂さんが手がけた家をウエブで見て、「こんな家が建てたい!」と設計を依頼。それは、まさにタイルとコンクリートをバランスよく配置した、風景になじんだ家でした。
設計にあたって、まずリクエストしたのが、浴槽から水平線が見たいという点でした。
海と坂があるこの街が好きで、この場所から海が見えるのを確認して土地購入を決めたというNさんにとって、それは当然の希望でした。
家づくりは、浴室の位置を決めるところから始まりました。
海が見える高さに浴槽を配置するため、浴室は2階に決定。
次に、仮設ステージを組んで、景色を見比べた結果、現在の浴槽を配した西側からみるシーンがベストということに。せっかくの景色をより楽しめるように、浴室の窓はワイドなサイズにしました。
浴槽に座った位置から逆算して、浴室の天井高も決めたとかで、「まさにうちは浴室ありきなんでよ」とNさん。
浴室と脱衣室との仕切りは透明のガラスを配しているため、外から屋内に視線を移しても開放感たっぷりです。
平日は忙しくバスタイムを満喫できないNさんですが、週末はお子さんと一緒に湯船につかり外を眺めるのを楽しんでいます。昼は江ノ島と水平線が、夜は灯台の明かりがとてもよく見えるそうです。
いちばんのお気に入りでもあるバスルームには、エコガラスを採用。その効果はというと、冬は外からの冷気をシャットアウトし結露もなく、夏も強力な西日を遮るなど四季を通じて文字どおり快適に過ごせているそうです。
N邸は中庭を囲んだ「コ」の字型。家族で過ごす西側部分と、寝室などのプライベートゾーンのある東側部分が、吹き抜けの玄関でつながっています。
家族のお気に入りは、1階西側のリビング。このリビングの特徴は天井高5.5メートルの吹き抜け部分に配した大きな窓です。この大窓からは、中庭と裏山が望めます。春の桜に始まり、夏には緑生い茂った緑の木々と、四季折々に移ろいゆく裏山の風景が楽しめます。
「夏は全面緑! とにかくきれいです」とNさん。「トンビを見たんだよ」と小1の息子さん。小鳥やリスなどともよく出会うとか。
中庭からちょうど望める和室は、ご両親と同居するためにつくったお部屋。別の空間にいてもガラス越しにちゃんと様子がわかるようになっています。
外側の壁面に大きな開口部を設けたため、外からの視線が気にならないのも心地よく暮らせるポイントの一つです。
「昼間はブラインドを閉めずにゆったり過ごす暮らしがしたかったのですが、ホントに実現できるとは……」と奥様。この開放感がたまらないそうです。
リビングの大きな窓をはじめ、N邸では居室のほとんどの窓は断熱と遮熱にすぐれているエコガラスを採用しています。リビングは方角的には朝から午前中の日差しの強い場所ですが、この夏も、熱気がほとんど入りこまず、エアコンをほとんど使わず乗り切ることができたそうです。
景色を招き入れるリビングの大窓をはじめ、「ちょっとした窓」が随所に設けられているN邸。風の通り道を計算して配置しているため、「夏はリビングの一角のちょっとした窓から風が入ってきて、ほかの窓からすっと抜けていくんです。心地よくって」と奥様。
この「ちょっとした窓」は、基本計画から周到に練り上げられたアイデア。
たとえばリビングの南側の壁は、一部30㎝ほど飛び出していますが、その飛び出した部分の西側に縦長の細い窓を設け、風をとりこんでいます。ここからはいった海からの風は、壁に当たり、部屋をめぐったのちに他の窓から出ていきます。
風通しに必要な窓は、大きさではなくその位置と形状によるところが大きいことを実感させられます。
風をとりこんで巡らせるためのしかけは窓の位置だけではありません。
それは中庭の南北に向い合って建つ、ゆるやかにカーブした2枚の壁。海からくる風はこの壁にぶつかり、窓を通してリビングのある西側の空間に流れてきます。つまり風の反射板です。
南側の壁は高さ3メートル、北側は6メートル。タイルを使用しているため、さほど圧迫感がありません。
さらに、この壁は風だけでなく光も反射させることで微妙な色合いの光を部屋にもたらし、リビングの暮らしに彩りを添えています。また、室内や隣の敷地の目隠しとしての役割も兼ねているとか。
さまざまなしかけによってリビングに入り込んだ風は、吹き抜けを通して2階の書斎&子ども部屋も巡ります。1階と2階で同じ風を共有することで、このエリアは家族が思い思いにくつろぐ立体的なファミリーゾーンとなり、互いが見えなくても安心していられる、気配を感じられる場所になっています。
風には、地形や地域その地域ならではの特徴があります。それを丁寧に計算して間口を設けたり、風通しを補助する仕組みをつくることで、風も味方につけつけたN邸。地元近くで事務所を構えこの地を熟知している前砂さんならではの風を読む技です。
このエリアは落ち着いた街並の風致地区。建築にあたっては通常の家づくりにはない障害がありました。
まず、コンクリート打ちっぱなしはNGという規制。これは道路に面する側にタイルを多用していることからクリア。
さらに、フラットな屋根は不可という条件も。前砂さんは「Nさんがどうしてもこの形を希望していること」を訴え、敷地模型とタイルのサンプル、完成予定の家のスケッチを見せたところ、担当者が気に入ってくれ、N邸より高い場所に家は建たないということで許可が下りました。
そのほか、埋蔵文化財のエリアいうとことで調査をしたりと、整地したりと施工までの道のりは長かったといいます。
「今にして思えば、いろいろありました。できなかったことはあるかもしれないけれど、優先順位を考えながら協議して決めていったので、結果としては満足です」とNさん。
どうしてもかなえたかったという広がりのある玄関まわり、エレベーターをつけるなど将来的に二世帯で暮らすことを見据えた家は、無理なくかないました。
また、本当に優先したいことを追求し工夫を重ねた結果、想定していなかったよさもでてきたとか。たとえば浴槽の位置を優先したため、浴室の天井はそれほど高くできませんでした。しかし窓を大きくすることで、かえって落ち着いた広がりのある雰囲気になっています。
家づくりのプロセスにかかわることは、「自分の大事なこと」について向き合うことでもあります。きちんと取り組むことで、「我が家」に対する満足感もアップし、愛着もわいてくるものなのだと感じさせられました。