最高気温が40℃を超える地域も出るほど、2020年の夏は厳しい暑さになりました。
新型コロナウイルス発生拡大で在宅時間が長くなり、企業がリモートワークを励行した時期もありましたが、現実には感染防止に気をつけつつ以前とさほど変わらない環境で業務を続けている場も少なくないはずです。
中小企業のオフィスや福祉関連施設はその典型のひとつでしょう。
仕事を続けながらスピーディな断熱改修を行い、外部からの熱を防いで快適な室内+省エネを実現した3つのエコガラス窓リフォーム事例をご紹介します。
京都府・(株)カシックス/茨城県・さんさん館子育て支援センター/岡山県・ケアハウスあかね
取材協力:
サン・ウインド(株)
https://www.sun-wind.jp/
備前グリーンエネルギー(株)
https://www.bizen-greenenergy.co.jp/
須賀工業(株)
http://www.suga-kogyo.co.jp/
最高気温が40℃を超える地域も出るほど、2020年の夏は厳しい暑さになりました。
新型コロナウイルス発生拡大で在宅時間が長くなり、企業がリモートワークを励行した時期もありましたが、現実には感染防止に気をつけつつ以前とさほど変わらない環境で業務を続けている場も少なくないはずです。
中小企業のオフィスや福祉関連施設はその典型のひとつでしょう。
仕事を続けながらスピーディな断熱改修を行い、外部からの熱を防いで快適な室内+省エネを実現した3つのエコガラス窓リフォーム事例をご紹介します。
盆地特有の暑さで知られる京都市内で約70年、(株)カシックスは工業原料薬品専門の物流会社です。築40年超の本社社屋の窓を、2016年8月にエコ改修しました。
老朽化によるサッシの気密低下やすきま風はずっと気になっていたものの、建物の全面改修は業務への支障やコスト面で難しさがありました。
その一方で高経年ビルを使い続けるために設備更新は避けられません。
社長の藤田周士さんが直面した悩みに、お隣の宇治市に本社を置くサン・ウインド(株)の小林徹也さんから、ある提案がなされます。窓のエコ改修+設備更新、さらに補助金*1獲得によるコストダウン。経営者と窓のプロの二人三脚で改修実現にこぎつけました。
工事の対象は、東と南で2面採光している事務所と会議室、南面に窓がある社員食堂の計3室です。傷んだ既存サッシをパッキンの交換などで補修・調整して生かし、そこにエコガラスの一種である真空ガラスをはめこむ“ガラス交換”という方法が選ばれました。
かかった時間は実質2日。うち1日は平日で、ふだん通りの業務時間中でした。どんな状況だったのでしょうか。
いわゆる“居ながら改修”は通常、仕事への支障や家具を動かす手間がなるべく生じないよう、建物外側から行います。
しかしカシックス社屋では、耐震補強で固くビス留めされた面格子が取り外せないなどの事情があり、室内側からの工事になりました。窓際には移動が難しい大型スチールキャビネットも並んでいましたが、ここで職人さんがプロの技術をいかんなく発揮。就業中だったスタッフいわく「気づいたら終わっていた感じですよ」
工事直後からエアコンの効き向上が体感され、翌月には電気料金も1割弱ダウンしました。
「設定温度は従来と変わらず26℃ですが、改修後は『暑いときは23℃まで下げていいよ』と言えるようになりました。30分で26℃に戻る設定にし、いざ戻ってもさほど暑さを感じない。それくらい効きがいいんです」と藤田社長。
スタッフからも「冷房で冷やされた室内の空気が、窓から外に逃げにくくなっていると感じます」との声が聞かれました。
古い建物でも、エコガラスによる窓の断熱改修と空調設備の更新を同時に行うことで「安心・快適な環境で営業が続けられます」と藤田社長。エネルギーコスト削減と地球環境保全への貢献もメリットですね、と続けました。
自治体が所有して住民向けサービスを行う施設も、オフィス同様に臨時休業を避けたい建物でしょう。
龍ケ崎市の子育て支援施設『さんさん館子育て支援センター』では、工事のために休館しないことを前提に、エコガラスによる窓の断熱改修を行いました。
さんさん館が対象とするのは、市内に住む0~3歳の子どもとその保護者です。保育士の資格を持つスタッフが常駐する館内にはプレイルームや乳児室、保護者向けの研修や食事もできる部屋などを設置。土日祝日と年末年始以外は通年で開かれ、年間1万5千家族の憩いの場となっています。
同時に、子育て環境日本一を目標に掲げて転入者を増やしたい龍ケ崎市にとって、政策面でも重要な施設でしょう。
このような背景から、館長の根本早苗さんにとって“工事は通常の休館日を使い、1日で”は譲れない点でした。「利用者さんのことを思えば休みたくないし、防犯面からも1日で終わらせてほしかったのです」
講座・研修室、乳児用の和室、そして併設されている市の出張事務室の窓が工事対象となりました。
龍ケ崎市は冬季に筑波山から冷たい風が吹きおろす土地柄で、改修の主目的は寒さや結露解消、さらに衛生面から結露でカビの生えたゴム部品の交換とされましたが、その一方で盛夏の最高気温が37℃にも達する内陸性気候でもあります。スタッフのひとりは「夏に出勤すると、一晩閉め切られた館内はムッとする暑さでしたね」
エコガラスの遮熱性能もまた、求められる環境だったといえるでしょう。
さらにさんさん館では、主な利用者である乳幼児期の子どもたちの体調を気遣い、室温管理にとりわけ注意を払ってきました。
1日に何度も館内をめぐって保護者に「暑いですか、寒いですか」と問いかけてエアコン調整するのが常といい、外の暑さ寒さを遮断して室内の温熱環境安定に寄与するエコガラスが活躍する余地は十分にありそうな状況でした。
ともあれ1日で27㎡、計16枚のガラス窓を改修し終えなければならない。スピード優先のこのミッションで選択された工事もまた、既存サッシを生かした真空ガラスへの交換です。
壁を壊さず、古いシングルガラスと傷んだゴム部品を外してエコガラスと新たな部品を入れ直すだけ。足場が不要だったことも幸いし、2019年2月、通常休館日の午前中から夕方までで工事は無事に終了しました。
翌日から室内の寒さは和らぎ、結露も解消。エアコンの設定温度を3℃も下げたそうです。声かけに答える利用者からも「室温を下げてと言われることはあっても、上げてとは言われなくなりました」
工事完了と同時に効果を実感できるのも、エコガラスの断熱改修の特徴です。
もうひとつ、少し規模が大きい居ながら改修をご紹介しましょう。
舞台はケアハウスです。数ヶ月を費やしてのエコリフォームでしたが入居者の日常生活は影響を受けることがなかった、そんな事例です。
『ケアハウスあかね』は、50人の入居者それぞれが自室=住戸を専有し、食堂やリビング、ホールなどの共用スペースを分かち合う岡山市の高齢者施設。
市街地と田畑、豊かな緑の丘がほどよくバランスする田園地帯に建つRC造6階建の建物で、夏の暑さに長年悩んできました。
大きな窓が並ぶ共用廊下が真西を向く設計で、庇もなく西日をまともに受けるのです。頼りは遮光カーテンでしたが、通り抜けてくる日射熱は強く、午後早い時間から日没まではエアコンの存在も感じられないような、辛い場所になっていたといいます。
明るさも眺望も申し分ない豊かな開口部が、その一方で体感面でも消費エネルギー面でも施設運営を圧迫していました。
反対に入居者の個室は真東に窓がつき、朝日の熱に我慢を強いられる状態。「温度の感覚が鈍っている方も何人かおられるので、もし暑い中でエアコンをつけていなかったら」と、施設スタッフの心配は尽きなかったといいます。
エコリフォームに踏み切ったきっかけは、たびたび起こるエアコンの故障でした。館内に複数あるエアコンは壊れるたびに施設スタッフが電気店に走っていましたが、長期間の使用で「もう部品がない」と言われてしまうことも。
「これは全面的な入替を計画しなければと思いました」施設長の狩野理依さんは振り返りました。
設備更新と同時に狩野さんは建物全体の省エネルギー化を決断します。環境エネルギーのコンサル会社である備前グリーンエネルギーに依頼して本格的なシミュレーションを実施しました。
その結果を受け、当時まだハシリだったZEB*2実証事業の補助金申請を前提に、エアコンをはじめとする設備の更新・エコガラスによる開口部断熱・太陽光発電パネルによる創電そしてBEMS*3導入を決めたのです。
定められた工期は3ヶ月。個室と共用部合わせて実に500枚の窓をアタッチメント付きエコガラスに交換する開口部断熱工事も、もちろん組み込まれています。
そのかん、入居高齢者の暮らしとスタッフの日常業務に支障を出さないために周到な準備がなされました。
まずは一週間を工事の1単位に決めました。週のはじめに施設スタッフと施工担当者が膝を付き合わせてスケジュールを詰め、その後関係者全員が集まる工程会議で質疑応答・確認して問題点をすべてつぶし、内容を決定した上で実際の工事へ。これを毎週繰り返す一連の流れをつくったのです。
利用者への情報提供も徹底されました。
特別養護老人ホーム等と違って入居者の自立度が高いケアハウスでは、館内の移動や自室の在不在も本人に任されているため、工事箇所や日程は細かい調整が不可欠。
「館内各所に張り紙をし、人が集まる親睦会でも話すなど何かにつけて入居者さんやご家族に工事の話をしました。音がするとか、職人さんがエレベーターを使うよとか」施設スタッフの言葉です。
施工担当者もエレベーター使用を自粛するなど入居者の移動に配慮し、施設内でイベントがあれば工事を上階部分に限るなど、細やかな気遣いを欠かさずに仕事を進めました。
入居者との関係も良好で、現場責任者の須賀工業(株)津島龍治さんは「ずっと出入りする中で仲良くなっていく感じでした。話しかけてきてアメ玉をいただいたこともありますよ」とにっこり。
こうして大規模なエコ改修は2014年1月に無事終了。同時に館内の温熱環境とその調整方法も変化しました。
施設全体に影響が大きい共用廊下は、毎朝すべての窓を開け放ってまず風を通します。夏は昼前に食堂のある2階、午後に他の階でエアコンを回しはじめ、同時に遮光カーテンを引き、その後は21時まで継続運転。
かつては居るのも辛かった場所で、涼しさを感じられるようになりました。
個室では快適さとともに安心・安全も実現されています。
東面に切られた窓の開け閉め等は入居者本人に任せていますが、更新したエアコンに人感センサーとエコモード運転を取り入れ、室温変化が感じにくくなった高齢者の方も快適・安全に過ごせるようにしたのです。
工事後の暮らしを入居者にうかがうと「エアコンをつけてから涼しくなるまで早くなったかな。夜は寝る前に部屋を冷やして、夜中に涼しすぎたらスイッチを切ります。住み心地? 上等ですよ」と笑顔で話してくれました。
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建物の暑さ対策において、窓の断熱リフォームはエアコン等設備機器の更新と並ぶスピード感そして空間からの移動・避難なしでの工事が可能という特長があります。
ビルや施設の管理者と工事担当者が連携して計画することで、業務にも暮らしにもほぼ影響なく、短い工期で快適化と省エネ化に向かえる。仕事しながらのエコガラス窓への交換は、まだしばらく続く残暑対策にも間に合う断熱改修です。
文 | 二階さちえ |
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撮影 | 中谷正人/渡辺洋司(わたなべスタジオ) |
イラスト | 中川展代 |